大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)82号 判決

原告 ゼネラル食品株式会社

被告 関幸四郎

主文

特許庁が昭和五三年二月一日、同庁昭和五一年審判第五一六三号事件についてした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文と同旨の判決

二  被告

(本案前の申立てとして)

「本件訴えを却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決

(本案についての申立て)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」

との判決

第二当事者間の主張

一  原告

(一)  原告は、別紙のとおりの構成を有する登録第九五四一六七号商標の商標権者であるが、昭和五四年五月一七日、取引先から右商標の登録は取り消されたのではないかと云われ調査したところ、右商標につき昭和五一年五月一一日被告から不使用を理由として商標登録を取り消すことについて審判請求がなされ特許庁昭和五一年審判第五一六三号事件として審理され昭和五三年二月一日本件登録商標の登録を取り消す旨の審決がなされたこと、右審決が確定した旨登録原簿に記載されていることが判明した。

しかしながら、右審判の請求から審決までの一切の書類は原告に届かず、原告は審判請求のあつたことも審決があつたことも知らなかつた。

原告の本店所在地は、はじめ東京都港区新橋六丁目二二番五号であつたが、前記商標登録後肩書現住所に移転し、その登記を経ている。ただ、このことを特許庁に届け出なかつたことは認めるが、商業登記簿を閲覧するなどすればたちどころに原告の住所を知ることはできた筈である。

したがつて、審判書類が公示送達に付されたものであるとしても、原告は、その責に帰すべからざる事由により本件審決に対する出訴期間を遵守しえなかつたものというべきであるから、民事訴訟法第一五九条の追完の規定により本訴を提起する。

(二)  審決理由の要旨

登録第九五四一六七号商標(以下「本件商標」という。)は、「ERICA」の文字の下にこれより小さく「エリカ」の文字を左横書きしてなり、第三二類食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品(他の類に属するものを除く)を指定商品として、昭和四四年六月二五日登録出願、同四七年三月二一日登録されたものである。

請求人は、本件商標の登録を取り消す旨の審決を求め、被請求人は本件商標をその指定商品について継続して三年以上日本国内において使用した事実はなく、また、専用使用権の設定登録の事実がないばかりでなく、通常使用権者としてその使用をしている者も存しないと主張する。

被請求人は答弁しない。

按ずるに、商標法第五〇条の規定によれば、継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者または通常使用権者のいずれもが各指定商品についての登録商標を使用していないときは、審判によりその指定商品に係る商標登録を取り消すものであり、上記の請求があつた場合においては、被請求人において、その請求に係る指定商品のいずれかについて、その使用の事実を証明し、または、使用していないことについて正当な理由があることを明らかにしなければならない。

しかるに、被請求人は、本件商標に関し、それらの事実及び理由について明らかにしていないこと前記のとおりである。

ところで、本件商標には、専用使用権、通常使用権及び本件商標と相互に連合する商標権の設定登録はない。

してみると、被請求人(商標権者)は、継続して三年以上日本国内において各指定商品について本件商標を使用しておらず、またそれを使用していないことについて正当な理由がないものと認める。

したがつて、本件商標はその登録を取り消すべきものである。

(三)  審決を取り消すべき事由

審決には、次のような違法があるから取り消さるべきである。

1 前にも述べたとおり審判請求書類は原告に送達されず、原告に答弁の機会を与えないまま審決がなされた。かりに公示送達に付したとしても、商業登記簿を閲覧する等して原告の住所をたしかめることもしないで公示送達に付したもので適法な送達とはいえず答弁の機会を与えたことにはならない。

2 本件商標は原告が親会社であるゼネラル通商株式会社とともに沖繩産パインアツプル缶詰に共同使用し、昭和四六年四月以降は右親会社が原告の許諾を得て単独で使用しているもので不使用により登録が取り消さるべきいわれはない。

二  被告

(一)  (本案前の主張)

原告が本件商標の商標権者であつたことは認めるが、本件訴えは、商標法第六三条第二項で準用される特許法第一七八条第三項の規定する期間経過後に提起された訴えで不適法なものである。すなわち、被告は、本件商標につき、昭和五一年五月一一日不使用を理由として登録を取り消すことについて審判を請求したところ、昭和五一年審判第五一六三号事件として審理され昭和五三年二月一日付で本件商標の登録を取り消す旨の審決があり、審決書の謄本は昭和五三年六月一四日原告に対し公示送達に付されたものであるから、本件訴えの提起は出訴期間経過後のものである。原告は本件訴えの提起を追完の規定による旨主張しているが、追完が認められるためには、「原告がその責に帰すべからざる事由により訴提起の期間を遵守することができなかつた場合」でなければならず、しかも「その事由の止みたる後一週間以内」でなければならないところ、本件の場合、審決謄本が公示送達に付された原因は、原告が住所移転後四年にもなるのに登録原簿に住所移転の登録(登録名義人の表示変更登録)手続を行なわなかつた点にあり、原告自身の責に帰すべきものであるから、本件訴えは追完が認められるべき要件を欠くものである。商業登記簿に原告の本店所在地が肩書住所に移転した旨の登記がなされたことは認めるが、自己の怠慢を棚にあげ原告の転居先を調査するため特許庁職員が登記所まで出向くことを要求したりするのは不当な見解といわなければならない。

(二)  原告の主張(二)は認める。

(三)  原告の主張(三)について

1について

被告からの審判請求書副本は、特許庁に対し原告から住所移転の届出がなされておらず原告の住所が不明であつたので、特許庁は、特許法第一九一条(商標法に準用。同法第七七条第五項)により昭和五一年七月二七日適法に公示送達に付したものであり、答弁の機会を与えているというべきである。

2について

争う。

理由

一  被告は、昭和五一年五月一一日、登録第九五四一六七号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である原告を被請求人とし商標法第五〇条第一項により本件商標の登録を取り消すことについて審判を請求したところ、昭和五一年審判第五一六三号事件として審理され、昭和五三年二月一日付で本件商標の登録を取り消す旨の審決がなされたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証の五の二と弁論の全趣旨をあわせれば、右審決の謄本は昭和五三年六月一四日原告に対し公示送達に付されたことが認められる。

ところが、本件記録によれば、本件訴えが提起されたのは翌昭和五四年五月二二日であるから、本件訴えは商標法第六三条により準用される特許法第一七八条第三項所定の出訴期間が経過してから提起されたものであることは明らかである。

しかしながら、原告代表者本人尋問の結果によつて成立の認められる甲第一一号証、原告代表者本人尋問の結果および弁論の全趣旨をあわせると、原告は被告から審判請求があつたことも(審判請求書副本も公示送達に付されたことは後記のとおりである)審決があつたことも全く知らないでいたところ、昭和五四年五月一七日、取引先の東洋製缶株式会社の社員から本件商標の登録が取り消されている旨の情報を得たので直ちに調査したところ、前記のように被告から審判請求があり登録取消の審決がなされていることをはじめて知り、急遽同月二二日右審決の取消しを求めて本訴を提起したものであることが認められる。

そうすると、本訴は、審決がなされたことを原告が了知してから一週間内に提起されたことは明らかである。

そこで、審決があつたことを知らなかつたこと(このことが不変期間たる出訴期間を遵守できなかつた事由であることはいうまでもない)が原告の責に帰すべからざる事由といえるかどうかについて検討する。

本件商標の登録後、原告は、その主張のように本店所在地を現住所に移転したが、このことを特許庁に届け出なかつたこと、しかし商業登記簿には原告の本店所在地が現住所に移転した旨の登記がなされたことは当事者間に争いがない(そして、成立に争いのない甲第二号証によれば、移転の日は昭和四七年五月二二日であり、登記の日は同年五月二六日であることが認められる)。

このように原告は、住所の移転を特許庁には届け出なかつたとはいえ、会社の住所移転につき商業登記手続をして対抗要件(商法第一二条)を具備しているのであるから、後記するように、商業登記簿ないし謄本を調査すれば、原告の住所は判明したはずで、公示送達に付されなかつたと考えられるから、右のように原告が審決があつたことを知らなかつたことは、原告の責に帰すべからざる事由であると解するのが相当である。

したがつて、原告が行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第一五九条により追完して提起した本件訴えは、適法ということができる。

二  そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討する。商標法第五六条により準用される特許法第一三四条第一項によれば、審判長は審判請求書の副本を被請求人に送達し、相当の期間を指定して、答弁書を提出する機会を与えなければならない。

本件の場合、成立に争いのない甲第四号証の五の一によれば、原告を被請求人とした被告からの審判請求書副本は、昭和五一年七月二七日公示送達に付されたことが認められる。しかしながら、特許庁において同副本を一旦原告の旧住所にあてて送達し、それが不能になつたとしても、原告が住所移転について商業登記手続を了していることは前に述べたとおりであるから、特許庁は、少くとも商業登記簿ないしその謄本をみずから、または請求人たる被告に提出させるなどして、調査すれば、原告の住所は直ちに判明した筈である。

そうすると、右審判請求書副本の公示送達は要件を欠き、原告に対し適法な手続により答弁書を提出する機会を与えたことにはならないというべきであるから、審決は違法というほかなく、取り消しを免れない。

三  よつて、本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小堀勇 小笠原昭夫 舟橋定之)

別紙

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例